ジョン・タイターとの比較で見えた奇妙な偏り
日本の都市伝説系YouTuberを見ていて、以前からひとつ不思議に思っていることがある。
「2062年未来人」が、妙に扱われていないのである。
もちろんゼロではない。
たっくーTVやコヤッキースタジオなど、2062未来人を取り上げた100万人級YouTuberは存在する。
しかし、同じ「ネット掲示板に現れた未来人」であるジョン・タイターと比べると、明らかに様子が違う。
100万人級の主要都市伝説チャンネルを調べてみると、ジョン・タイターはほとんどのチャンネルで確認できた。
一方、2062未来人を明確に確認できたのは、ごく一部だった。
これはなぜなのだろう。
ジョン・タイターは都市伝説界の超有名人
ジョン・タイターは2000~2001年ごろ、インターネット掲示板に現れた「2036年から来た未来人」である。
日本でも非常に有名で、『STEINS;GATE』などの作品にも取り込まれたことで、都市伝説に詳しくない人にまで名前が知られるようになった。
だからYouTuberがジョン・タイターを扱うこと自体は、まったく不思議ではない。
問題はその「実績」である。
ジョン・タイターは、2004~2005年ごろからアメリカで内戦が始まり、2008年には本格化し、2015年にはロシアとの核戦争が起きるという、かなり具体的な未来を語っていた。
しかし、これらは起きなかった。
現在まで「タイターは本当に未来を知っていたのではないか」と語られる最大の材料は、IBM 5100についての記述だろう。
タイターは、この古いコンピューターに一般にはあまり知られていなかった機能があると語った。
後にIBM 5100の内部構造との符合が注目され、「なぜそんなことを知っていたのか」と話題になった。
もっとも、これを本当に「隠された機能」と呼べるのかについては議論がある。
そして何より、これは未来を言い当てた予言ではない。
過去に存在したコンピューターについての技術的知識である。
つまりジョン・タイターは面白い。
間違いなく面白い。
だが、「未来を言い当てた人物」として見ると、意外なほど弱いのである。
2062未来人には「山に登れ」がある
それに対して、2062未来人には、どうしても無視できないものがある。
2010年11月14日。
まだ東日本大震災が起きる前である。
掲示板で、
あなたの時代までにあった歴史に残るような大きな自然災害を教えてください
と質問された2062氏は、自然災害については人口動態を変えてしまうため答えられない、としたうえで、奇妙な文字列を残した。
yあ 間 N意 埜 b於 レ
後に、
山に登れ
と読めることが知られるようになる。
そして117日後。
2011年3月11日。
東日本大震災が発生した。
巨大津波から助かるために最も重要だった行動は、まさに「山に登れ」、つまり高台へ逃げることだった。
もちろん、これだけで「2062氏は本当に未来から来た」と証明できるわけではない。
偶然だった可能性もある。
後付けの解釈だという批判もできる。
そこは自由に議論すればいい。
しかし、都市伝説というジャンルの話をしているのである。
2010年11月にネット掲示板へ現れた自称未来人が、未来の大災害を聞かれ、
言うことは許されない
と言いながら、
山に登れ
という謎のメッセージを残す。
その117日後に、日本史に残る巨大津波が発生する。
こんな題材がほかにいくつあるだろうか。
私はここが、2062未来人をその他大勢の「未来人」と決定的に分けている部分だと思っている。
「当たった予言の数」の問題ではない
2062氏には、このほかにも後世から検証できる発言がいくつもある。
しかし、それらを全部持ち出す必要すらないと思う。
「山に登れ」。
これ一発で十分なのである。
未来人を名乗る人物なら、
「将来、大戦争が起きる」
「経済危機が起きる」
「大地震が起きる」
「新しい病気が流行する」
くらいのことは誰でも言える。
いつか何かが起きれば、それらしく見える。
しかし2062氏の「山に登れ」は構造が違う。
自然災害について具体的に質問され、
「答えられない」
と拒否し、
その代わりに暗号めいた警告を置いていった。
そして、そのわずか4か月後に津波が来た。
未来人という設定を最高に生かした展開なのである。
仮に全部創作だったとしても、とんでもなく出来のいい都市伝説だ。
だから私は逆に問いたくなる。
これを扱わずして、なにが都市伝説なのだ。
ところが大手YouTuberではジョン・タイターのほうが圧倒的
ここが今回調べてみて面白かったところである。
100万人級の主要都市伝説チャンネルでは、ジョン・タイターを扱った形跡が非常に多い。
Naokiman、キリン、コヤッキースタジオ、NMS STUDIO、たっくーなど、大手が軒並み取り上げている。
一方2062未来人は、同じような調べ方をしても明確に確認できるチャンネルがずっと少ない。
もちろんジョン・タイターのほうが世界的知名度は桁違いに高い。
だから単純に同じ本数になるはずだ、と主張するつもりはない。
しかし、ここで考えてほしい。
ジョン・タイターは具体的な未来予測のかなりの部分を外している。
それでも大手都市伝説YouTuberは喜んで扱う。
一方、日本のネットに現れ、東日本大震災の117日前に「山に登れ」を残した2062未来人は、それほど扱われない。
私は、この非対称性がおもしろいのである。
2062未来人には「扱いにくいもの」がくっついている
では、なぜなのか。
ひとつ思い当たる理由がある。
2062未来人の話を本気で追い始めると、途中から内容が急に危なくなるのだ。
中国は未来には存在しない。
韓国、北朝鮮も存在しない。
中国との軍事衝突。
第三次世界大戦。
日本の軍事行動。
領土の変化。
さらに、真正性に議論のある後期の書き込みまで含めると、民族について極めてセンシティブな内容まで登場する。
ここまで来ると、単なる「不思議な未来人のお話」では済まなくなる。
YouTubeでは国籍や民族をめぐる侮辱・蔑視表現には規制があり、規約違反にならなくても広告適合性という別の問題がある。
100万人もの登録者を抱えれば、もはや個人が好き勝手に都市伝説を語っているだけの世界ではない。
スタッフがいる。
事務所がある。
スポンサーがいる。
広告収入がある。
炎上リスクがある。
動画一本を作るにも、さまざまな商業的判断が働く。
そう考えると、
ジョン・タイターなら安全。
2062未来人は深入りすると面倒。
という判断が働いても、まったく不思議ではない。
実際、大手都市伝説YouTuber自身が「YouTubeでは規制される」内容を会員向け領域などへ移している例もある。
つまり都市伝説動画にも、目には見えない「編集フィルター」が存在していること自体は、それほど突飛な話ではない。
誰かが「2062を扱うな」と命令しているのか?
ここはまだ分からない。
中国や韓国に関係する何者かが、大手YouTuberへ直接圧力をかけている――などと主張できる証拠はない。
むしろ私は、そんな秘密命令などなくても説明できると思っている。
登録者が増える。
広告収入が増える。
企業案件が増える。
スタッフが増える。
守るべきものが増える。
すると自然に、
これはやめておこう。
というテーマが増えていく。
誰も禁止していないのに、結果としてみんな同じものを避け始める。
そのほうがよほど現代的ではないだろうか。
でも、それでいいのか都市伝説
私はYouTuberを批判したいわけではない。
100万人を抱えるチャンネルには100万人を抱える事情があるのだろう。
だが、一人の都市伝説好きとしては、どうにも納得できない。
ジョン・タイターを語る。
ノストラダムスを語る。
イルミナティを語る。
未来予言を語る。
世界の終末を語る。
なのに、
東日本大震災の117日前、
自然災害について尋ねられた未来人が、
山に登れ
という言葉を置いていった話を素通りする。
それで本当にいいのだろうか。
2062未来人が本物だったのか、偽物だったのか。
私はここでは結論を出さない。
そんなことよりも、この話にはもっと根源的なおもしろさがある。
もし偽物なら、
なぜ2010年11月に「山に登れ」だったのか。
もし偶然なら、
なぜこれほど出来すぎた偶然になったのか。
そして、
これほど都市伝説向きの話を、
なぜ日本最大級の都市伝説YouTuberたちは、ジョン・タイターほど積極的に語らないのか。
都市伝説とは、本来こういう「妙なところ」を掘るものではなかったのか。
少なくとも私にとって2062未来人は、
数ある自称未来人の一人ではない。
「山に登れ」。
あの一言だけで、
いまだに唯一無二なのである。
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